信託型ストックオプション

国税庁が信託型ストックオプション(株式購入権)の税務処理を明らかにしたことが、制度導入済みの企業に大きな波紋を呼んでいます。

国税庁は、従来から信託型ストックオプションの個別の問い合わせには給与所得課税になると回答してきたものの、給与所得課税の対象にならないとして導入が進んでいるため、見解を広く周知するために公表したとコメントしました。

そもそも、ストックオプションに関しては多様な論点があり、過去には、所得税では所得の種類(給与所得・雑所得・一時所得)や課税の時期が裁判等で争われ、企業会計では、当初の費用認識が不要な資本取引から費用認識が必要な給与取引に考え方が変更されるなど、多くの議論を巻き起こしてきました。

実際、今回問題となっている信託型ストックオプションの税務処理についても、専門家の中には給与所得課税にならない点を疑問視する声がありました。

もっとも、納税者が判断することが困難な税務処理については、納税者の事前照会に対して税務当局が文書で回答する手続きを利用することができます。

企業に信託型ストックオプションの導入を勧めていた専門家は、今回の税務処理に文書回答手続きを利用しなかった理由について、「一般的に税務の照会で文書回答手続きはあまり使われない。そもそも課税を受ける主体でないと手続きを利用できない。非常に使い勝手が悪く、時間も要する」(2023年6月12日付日本経済新聞電子版)とコメントしています。

専門家は、「17年に名古屋国税局に、20年には東京国税局に対面で資料も提供して問い合わせた。いずれも『オーナーが信託に資金拠出するタイプであれば、譲渡益課税である』との回答を得ている」(2023年6月12日付日本経済新聞電子版)として導入を推奨したようです。

今後、信託型ストックオプションを導入済みの企業では、権利行使した個人の給与所得課税や企業の費用処理をどうするかなどの対応を迫られることになります。

そのため、企業としては、国税庁の見解に合わせて過去の処理を遡って修正するか、あるいは税務当局と裁判等で争うか、対応を決めていかなければいけません。

新しい税務処理については、安易に他社が導入しているという理由だけで判断せずに、税務当局への文書回答手続きの利用を検討するなど、慎重に進めることが重要です。

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