急がば回れ
11月の大統領選挙を控えた米国では、日本製鉄によるUSスチールの買収話に暗雲が立ち込めています。
先週12日に開かれたUSスチールの株主総会では、日本製鉄が市場価格を大幅に上回る買収価格を提案していることもあり、大多数の株主が買収に賛成しました。
しかし、バイデン大統領の支持基盤である全米鉄鋼労働組合(USW)が買収に反対し、ライバルのトランプ前大統領がこれを支持したため、買収話は大統領選挙に絡む問題へと発展しました。
今のところ、USWが選挙を見越して自分たちに不利な内容に反対して、USWの支持を得たいバイデン大統領が買収話に慎重な姿勢をアピールしています。
米国経済の観点で買収話を考えれば、比較劣位の企業から比較優位の企業へと労働力が移動して米国企業の競争力が高まることから、本来は歓迎すべき話です。
ですが、現実社会の労働力の移動には、働く人々に大きな不安と痛みが伴います。
ある企業で長く働いてきた人が競争に負けたからといって、すぐさま競争相手の企業に転じることには相当な抵抗があるでしょう。
また、買収を受け入れた結果、長年住み慣れた場所を離れるような事態となれば、家族にも相当の痛みが生じることとなります。
日本製鉄では9月末までの買収手続き完了を目指しているようです。
しかし、現在の状況では、11月の大統領選挙が終わるまでは買収手続きの完了は難しいかもしれません。
USWの反対は買収後も避けて通れない問題です。
そうであれば、日本製鉄は早道や危険な方法を選ばずに、回り道でも安全・確実な道をいくほうが、最終的な目的達成に近づくことになるでしょう。