賃上げ税制の控除率引上げと税額控除限度額
2022年度の与党税制改正大綱が12月10日に公表されました。
改正の目玉には、賃上げ税制の控除率の大幅引き上げがあります。
これまで企業が賃上げした場合の控除率は、大企業で20%、中小企業は25%が最大でした。
今回はこれを、大企業で30%、中小企業では40%まで引き上げようというものです。
そのねらいは、賃金を上げることで個人消費を拡大し、景気をよくして、つぎの賃金の引上げにつなげていくという、成長と分配の好循環にあります。
しかし、法人税の税額控除制度には控除限度額という枠があるため、控除率を引き上げても、実際の減税額はそれほど大きくなりません。
賃上げ税制の控除率引上げ
今回見直される賃上げ税制は、2つの制度のことをさします。
1つは人材確保等促進税制、もう1つは所得拡大促進税制です。
人材確保等促進税制は、一般に大企業向けといわれますが、中小企業も適用できます。
この制度は、新規雇用者の給与が前年よりも2%以上増えることで、給与の15%を当期の法人税から控除するというものです。
改正では、適用要件が新規雇用者の給与増から継続雇用者の給与増に見直されたため、もう1つの賃上げ税制の所得拡大促進税制と内容がかなり近くなりました。
中小企業にとっては選択肢が減ったため、良くない改正といえます。
つぎに、所得拡大促進税制ですが、これは中小企業向けの制度になります。
適用要件は、雇用者の給与が前年よりも1.5%以上増えることで、給与増加額の15%を当期の法人税から控除できます。
また、上乗せ措置があり、給与が前年よりも2.5%以上増加、かつ教育訓練費が前年よりも10%以上増加するなどの要件を満たすと、さらに10%をプラスして控除することができます(最大25%=15%+10%)。
今回の改正では上乗せ措置が拡充され、給与が前年よりも2.5%以上増加でプラス15%、教育訓練費が前年よりも10%以上増加でプラス10%、それぞれ上乗せして控除できるようになりました(最大40%=15%+15%+10%)。
税額控除限度額
法人税の税額控除制度には、恒久的なものと政策に沿った臨時的なものの2種類があります。
たとえば、所得税と法人税の二重課税を排除するための所得税額の控除制度は、恒久的な制度です。
また、政策に沿った臨時的な制度には、賃上げ税制のほか、試験研究を行なった場合の税額控除制度や、機械等を取得した場合の税額控除制度など、複数の制度があります。
ただし、どの制度にも控除限度額という枠が決められていて、控除対象額の全額がつねに控除できるという作りにはなっていません。
賃上げ税制にも、当期の法人税の20%という控除限度額が決められています。
今回の改正で、控除対象額が給与増加額の40%に引上げられても、実際に控除できる金額は控除限度額で頭打ちとなります。
雇用者給与が2億円の会社が給与を前年よりも1.5%増やした例を考えてみましょう。
この会社の場合、現在の賃上げ税制では、給与増加額300万円(2億円×1.5%)に控除率15%を掛けて、控除対象額は45万円(300万円×15%)になります。
このとき、会社の税引前利益を3,000万円、法人税率を25%とすると、当期の法人税は750万円となり、税額控除限度額は150万円(750万円×20%)になります。
この例では、控除対象額45万円<税額控除限度額150万円ですから、控除対象額45万円は全額を当期の法人税から控除することができます。
つぎに、今回の改正をうけて、この会社が給与を前年よりも2.5%増やし、かつ試験研究費も前年より10%増やした例を考えてみましょう。
その場合、給与増加額は500万円(2億円×2.5%)となり、控除率40%を掛けた控除対象額は200万円(500万円×40%)になり、155万円(200万円-45万円)増加します。
しかし、会社の税引前利益が前例と変わらなければ、税額控除限度額は150万円(750万円×20%)のままですから、控除対象額200万円>税額控除限度額150万円となり、実際に控除できるのは150万円が限度です。
今回の賃上げ税制の改正については、制度を利用できるのは一握りの好業績企業で、一般の中小企業には恩恵がないとして、効果を疑問視する声があります。
実際に、中小企業の経営は厳しく、法人税を支払っていない赤字会社が多いのも現実です。
また、たとえ法人税を支払う優良企業でも、税額控除には限度額という枠があるので、控除率を大幅に引き上げても、実際の減税額はそれほど大きくなりません。
法人税の負担を減らして賃上げを促すという、税制改正のねらいがどこまで効果を生むかは疑問です。
まとめ
2022年度の与党税制改正大綱が12月10日に公表され、改正の目玉に賃上げ税制の控除率の大幅引き上げがあります。
そのねらいは、従業員の賃金を上げることで個人消費を拡大し、景気を良くすることで、つぎの賃金の引上げにつなげていくという、成長と分配の好循環にありますが、法人税の税額控除制度には控除限度額という枠があるため、実際の減税額はそれほど大きくなりません。