価格の値上げと据え置きの判断
エネルギーや食糧を中心に仕入価格の高騰が続いています。
コロナ後の世界的な需要の回復に加えて、ロシアによるウクライナの軍事侵攻、内外金利差による円安など、いくつかの要因があげられています。
商品・サービスの値上げには、デフレに馴染んだ消費者の抵抗感は強く、コストを転嫁する動きが広がれば、コロナ後の消費の回復に水を差す恐れもあります。
それでも、コストの上昇が大きければ、企業努力だけでは吸収することができず、商品・サービスの値上げはやむを得ません。
企業にとっての値上げは、コストの上昇を吸収できる一方で、買い控えによる売上減少も予想されるだけに、実際の値上げにはなかなか踏みきれないことも多いです。
コスト上昇の影響(粗利益率25%)
原材料などのコストの上昇が、業績に与える影響を簡単に試算してみましょう。
たとえば、商品の販売価格 100、商品原価 75、粗利 25、経費 15、利益 10、の事業があるとします。
ここで、原材料の価格が 5 増加して、商品原価が 75 から 80 に増加したとします。
商品の販売価格を 100 に据え置く場合には、粗利は 100 - 80 = 20 となり、経費 15 に変化がないとすると、利益は 20 - 15 = 5 となり、以前から半減します。
そこで、何とか利益をもとの 10 に戻そうとして、販売する量を増やします。
かりに、売上を増やしても経費は変わらない前提で、売上を 25 増やせば、売上 25 - 原価 20 = 粗利 5 となり、コスト上昇分の 5 を取り戻すことができます。
ただし、実際には、100 の売上を 125 に増やすのは簡単ではないうえに、25% もの仕事量が増えるのに追加の経費増加がゼロというのは現実的ではありません。
コスト上昇の影響(粗利益率55%)
つぎに、粗利益がもう少し厚い事業で、同じようにコスト上昇の業績への影響を試算してみます。
商品の販売価格 100、商品原価 45、粗利 55、経費 35、利益 20、の事業があるとします。
ここで、原材料の価格が 5 増加して、商品原価が 45から 50 に増加したとします。
商品の販売価格を 100 に据え置く場合は、粗利は 100 - 50= 50 となり、経費 35 に変化がないとすると、利益は 50 - 35 = 15 となり、以前から 25% 減少します。
そこで、利益をもとの 20 に戻そうとして、販売する量を増やします。
かりに、売上を増やしても経費は変わらない前提で、売上をさらに 10 増やせば、売上 10 - 原価 5 = 粗利 5 となり、コスト上昇分 5 を取り戻すことができます。
この場合、実際に、売上を 100 から 110 に増やすこと、追加の経費増加をできる限りゼロに抑えることは、現実的にできるかもしれません。
事業ごとの値上げ・据え置き
はたして、コストの上昇分を値上げで取り戻すのか、それとも販売量の増加で取り戻すのか、どちらを選ぶのかは難しい問題です。
長く続いたデフレは、商品・サービスの価格と同様に、働く人たちの賃金の上昇を抑えてきました。
収入が増えない消費者からすれば、値上げに対抗する方法は買い控えしかないのかもしれません。
ですが、事業によっては、値上げ以外の方法でコストの上昇をカバーすることはできません。
これから、幅広い商品・サービスに値上げの動きがでてくるはずです。
自社と競合する商品・サービスや、類似する商品・サービスの価格の動向に注視しながら、事業ごとに値上げ幅や販売量の引き上げなどを、慎重に検討することが必要です。