円安と適者生存
日米の金利差の拡大や日本の貿易赤字拡大など、為替相場の思惑から1ドル130円を超える円安が進行しています。
急激な円安は、外国から輸入する食糧やエネルギーなどの価格を一気に押し上げます。
最近は、物価が賃金よりも先に上がると家計を圧迫するので、円安は景気にマイナスという声も増えています。
ただ、海外に輸出する企業は円安がプラスになることや、海外投資や海外進出で得る所得は円安で水増しされます。
そのため、専門家の間でも、日本にとって円安は良いのか悪いのか、意見は分かれています。
加工貿易という成長戦略
日本はかつて、加工貿易でたくさんの工業製品を海外に販売していました。
国土が狭くて資源の乏しい日本が豊かになるには、外国から原料を輸入して材料を作り、製品に加工して外国に輸出するという、加工貿易が国の成長戦略でした。
この戦略は、日本に高度経済成長をもたらし、日本はとても豊かになりました。
しかし、その一方で、加工貿易は外国の雇用を奪っているという理由で、日米貿易摩擦に象徴される国際問題へと発展しました。
円高下の海外進出戦略
日本の加工貿易は、米国の貿易赤字を減らすために、1985年9月に米、英、仏、西独、日本の5カ国がドル安誘導に合意したことで、大きな曲がり角をむかえます。
合意の当時に1ドル240円ほどだった円相場は、すぐに1ドル150円近辺の円高ドル安水準となり、そこから長期に及ぶ円高相場が続くことになります。
為替相場が円高になれば、外国が日本から輸入する工業製品の価格は上昇します。
その結果、日本の工業製品の輸出量は減少していき、日本は輸出産業を中心に深刻な不況へと突入しました。
企業は、円高に対応するためにコストの削減に努力し、それも限界になると、やがて海外に進出していき、現地に工場を建てて現地で生産を開始します。
こうして、国内の輸出産業は徐々に空洞化していきますが、国内の製造業が円高下で生き残るためには必要な戦略だったわけです。
適者生存の戦略
ビジネスの環境が大きく変化する場面では、自然界にならって適者生存の法則が引き合いに出されます。
厳しい自然界で生存していくものは、強いものでも賢いものでもなく、適応力があるものです。
現在の円安がどこまで進み、いつまで続くのか、わかる人はいません。
ですが、円安がある程度続くとすると、外国から輸入して国内で消費するモノや販売するモノは、国内で生産する方が有利になってきます。
とくに、ロシアのウクライナ侵攻が、食糧やエネルギーを外国に依存するリスクを鮮明にしたことで、これらの国内自給の問題は、国の安全保障にも絡んで活発な議論が予想されます。
また、現在はコロナで、外国人旅行者の国内消費を期待することはできませんが、回復時には円安が強力な追い風になります。
円安に苦しむ企業は、いまが雌伏の時期かもしれません。
ビジネスの環境変化を戦略転換の好機と捉えて、何が適者生存の戦略になるかを熟慮することが大切です。