税務会計の弊害

ロシアによるウクライナの軍事侵攻が長期化するなか、ロシアでのビジネスを見直す企業が相次いでいます。

令和4年3月期決算では、総合商社や大手メーカー、メガバンクなどが、ロシア関連で多額の損失や引当金を計上しました。

上場企業が決算で計上した減損損失や貸倒引当金は、基本的に税務上の損金とはなりません。

したがって、上場企業の決算には、中小企業の決算に比べて、厳しい会計処理が適用されています。

日本企業の会計は、一般に公正妥当と認められる公正なる会計慣行を規範に、昭和24年に大蔵省企業会計審議会が定めた、企業会計原則が基礎になっています。

しかしながら、企業会計は、企業にどの法律が適用されるかによって、その内容に大きな開きが生じています。

たとえば、会社法は、株主および債権者保護を目的として配当可能利益を算定するために企業会計を用い、金融商品取引法は、投資家保護を目的として投資判断に必要な経営成績や財政状態を開示するために企業会計を用います。

また、法人税法は、公正な課税を目的として課税所得を算定するために企業会計を用います。

なかでも、金融商品取引法が適用される上場企業の会計は一番厳格で、今回のロシア事業の見直しのように、企業が何らかの原因で損失を被るような場合には、損失が発生した時点で金額を合理的に見積もり、決算では必ず損失を計上しなければいけません。

たとえば、店舗の収入が大きく減少したり、工場の稼働率が大幅に低下したりして、投資額の回収が見込めないような状態になると、企業は固定資産の減損損失の認識を検討しなければいけません。

そこでは、経理部を中心に担当部署や経営陣が加わり、様々なケースを想定しながら事業計画を見直して、店舗や工場が将来生み出すキャッシュ・フローを見積もります。

また、見積もられたキャッシュ・フローは、外部の監査法人の監査を受けるので、企業はその根拠を合理的に説明できるように準備します。

こうしたプロセスは、上場企業の大きな負担になりますが、その反面、いち早く店舗や工場の将来について、上場企業が真剣に考える機会を提供します。

かたや、大半の中小企業には、高度な会計処理に対応できる人員や能力、体制はありません。

また、決算の開示は、一部株主や税務当局、取引銀行に限られるので、会計処理は、法人税法の取り扱いに従う場合が殆どです。

もちろん、中小企業に対して、上場企業のような会計処理は不要ですが、損失が税務上の損金とはならないことで、いたずらに事業の見直しを遅らせ、将来に甘い予測を抱くことは、良い結果には繋がりません。

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