投資と成長の好循環
岸田首相は、経団連など経済3団体の新年祝賀会の挨拶の場で、各業界の経営者に対して、今年の春闘ではインフレ率を超える賃上げが実現できるように要請しました。
しかし、新型コロナの終息が見えず、エネルギーや原材料の価格高騰が続くなか、大企業と違い経営基盤の脆弱な中小企業では、大半の経営者が賃上げに慎重です。
「成長の果実を、従業員に分配する。そして、未来への投資である賃上げが原動力となって、更なる成長につながる。こうした好循環を作ります。」、これが岸田政権の掲げる、成長と分配の好循環の政策です。
ですが、この政策は、「成長の果実を、従業員に分配する。」というスタート部分がとても困難にみえます。
成長の果実とは、要するに、自社の商品・サービスの売上の増加です。
大半の企業は、これが実現できないために、経営が厳しく、賃上げすることができていません。
成長と分配の好循環の政策には、その出だし部分に鶏が先か、卵が先か、という問題があり、政策の実現には、まず問題の解決が必要となります。
日本は、働く人の約7割が中小企業に雇用されています。
したがって、賃上げによって日本の景気が回復してから、自社の賃上げを決めようと考える企業には、いつまで待っても、その機会は訪れません。
たしかに、現在の経営環境の中で、企業が売上を増やすことは容易なことではありません。
それでも、企業は、今までにない商品を売り出してみたり、顧客がもっと満足できるような改良を試みたりして、この値段なら買ってもいいと顧客に思わせるように努力していく必要があります。
そして、新しいアイデアを考えたり、顧客満足度を引き上げる施策を思いついたりする役目が社員にあるのであれば、社員のやる気なくして良いモノはできないはずです。
そう考えれば、まずは社員の給料をアップして、その頑張りに期待するという考え方は十分に納得することができます。
成長の果実を生み出す役目が社員であれば、賃上げは成長の果実の分配ではなく、成長を生み出す投資ということになります。
売上が先か、賃上げが先か、その捉え方は経営者によって千差万別です。
しかし、岸田政権の掲げる、成長と分配の好循環の政策を、投資と成長の好循環と捉えることができれば、中小企業にとって賃上げの決断は決してできないことではないようにみえます。