税務訴訟について
先週、2つの税務訴訟で最高裁の判決がありました。
1つは相続税、もう1つは法人税の判決です。
2つの判決
相続税の訴訟では、納税者が路線価などで算定した不動産の評価額が、時価よりも低すぎる点が問題になりました。
相続税は、法律で不動産は時価に基づき評価額を算定することになっています。
しかし、現実には、相続する不動産の全部に時価を算定することができないので、国は、取引価格の8割程度とされる路線価などで評価することを認めています。
もっとも、そこには例外もあって、路線価などで算定した評価額であっても、その評価額が著しく不適当な場合には、国は独自に再評価することができます。
今回の裁判では、この例外の適用の是非が争点になりました。
一審、二審とも、国の主張が認められており、先週の最高裁の判決でも同じ結果になりました。
つぎに、もう1つの法人税の訴訟では、納税者が企業グループの組織再編にともない、グループ会社に支払った借入利息が、取引の経済合理性を欠いているかどうかが問題になりました。
法人税法には、企業グループ内の会社の行為や計算で、それを容認すると法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるものがあるときは、国がその行為や計算を否認して独自に法人税を計算することができる規定があります。
訴訟では、一審、二審ともに納税者が勝ち、先週の最高裁でも、取引の目的には税負担の減少が含まれているとしましたが、経済合理性を欠くとまではいえないとして、国の主張を退けています。
その結果、先週の2つの最高裁の判決は、納税者と国の一勝一敗に終わっています。
おそらく、敗訴した納税者は、相続税の軽減など考えなければ良かったと後悔しているでしょう。
ただ、勝訴した納税者も、今回問題とされた取引を今でもやって良かったと思っているのかどうか、は疑問です。
訴訟にかかる時間とお金と労力
相続税の事案は、平成20年頃に被相続人が信託銀行に相続税の相談をしたことに始まり、その後、相続税の負担を軽減する目的で信託銀行から10億円余りのお金を借りて13億円余りの不動産を取得しています。
そして、平成24年6月に相続が発生して、平成25年3月に相続税の申告を済ませますが、平成28年4月に国から2億4千万円ほどの相続税の更正処分を受けています。
もう1つの法人税の事案は、平成20年から平成21年かけて企業グループの組織再編をおこない、それにともなってグループの海外の会社から866億円を借り入れ、そのグループ会社に支払った借入利息を損金として申告します。
しかし、国は、一連の行為は不合理、不自然で、グループ会社でなければできない行為であって経済合理性を欠くとして、支払った借入利息を損金と認めず、平成24年までの5年間で約181億円の申告漏れを指摘、約58億円の追徴課税をします。
そして、どちらも、結果はどうであれ、最終決着するまでには何年もの月日を費やしています。
また、税務訴訟では、負けたときの延滞税の負担を考えて、先に納税だけは済ませることが多いので、決着するまでの資金負担もかなりのものになります。
さらに、裁判等の準備は、通常業務や日常生活の合間にすることになります。
ですから、裁判等で戦うにしても、社内の専門部署や外部の専門家の協力なしには無理ということになります。
税務訴訟には時間もお金も労力もかかります。
無理な節税や税務訴訟は、できるだけ避けるに越したことはありません。
ですが、もしも、実際にすると決めるのであれば、その前に、決着するまでの時間とお金、労力をしっかりと頭に入れて冷静に判断する必要があります。