赤字体質からの脱却
賃上げ促進税制は、従業員の給与・賞与を前年度よりも増やした企業の法人税を減額する制度です。
中小企業向けと大企業向けの2つがあり、中小企業向けでは従業員の給与・賞与を前年度よりも1.5%以上増やすと増加額の15 %、2.5%以上増やすと増加額の30 %を、それぞれ当年度の法人税額から差し引く(法人税額の20%が上限)ことができます。
とはいえ、政府の意図に反して、中小企業向けの賃上げ促進税制の利用実績は低いものです。
日本商工会議所の資料によれば、2021年度の中小企業の利用実績は、国内約350万社ある中小企業のうち、約13万社にしか過ぎません。
理由は簡単で、賃上げ促進税制の税優遇は法人税を納める黒字企業にしか及ばないため、そもそも法人税を納めない赤字企業には制度の利用ができません。
日本経済新聞によると、2021年度に法人税を納めていない資本金1億円以下の中小企業の割合は61.9%にも昇るため、大半の中小企業は賃上げ促進税制の対象外となります。
そのため、政府は賃上げ促進税制の利用企業を増やすために、赤字で使えなかった減税相当分を黒字年度まで繰り越せるように、令和6年度の税制改正で見直しを検討しているようです。
日本の労働者の賃金は先進国の中でも低水準です。
日本総研の資料によると、2023年1〜4月の平均為替相場をもとに円換算した最低賃金(直近データ)は、日本の961円に対して、アメリカ(カリフォルニア州)2,000円、フランス1,386円、ドイツ1,285円、イギリス1,131円、韓国991円となっています。
政府は、最低賃金の全国加重平均1,000円を目標に掲げますが、実現できたとしても他国との差が大きいことに変わりはありません。
総務省によると、2023年10月分の消費者物価総合指数(CPI)は前年同月比で3.3%上昇しました。
日本経済が成長と分配の好循環を実現するには、賃上げ促進税制が求める1.5%以上の賃上げでは到底足りないといえます。
日本全体の賃上げを実現するには、日本企業の99%を占める中小企業の稼ぐ力の引き上げが不可欠です。
政府は、中小企業に対して不採算事業からの撤退や新規事業の創出、海外販路の拡大など、中小企業の競争力を強化して生産性を引き上げる政策に注力する必要があります。
日本の中小企業の約6割が赤字という現状を変えなければ、持続的な賃上げの実現は困難です。