消費税の免税制度とインボイス制度
消費税の免税制度は、前々年又は前々事業年度の課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者について、消費税の納税義務を免除する制度です。
その趣旨・目的は、消費税制度の公平性や透明性を著しく損なわない範囲で、小規模事業者の納税事務負担に配慮して実務の簡素化のために設けられた特例措置といわれています。
一方、消費税の仕組みは、取引を通じて売り手(自分)が買い手から消費税を預かり、そこから自分が仕入や経費の代金に上乗せして支払った消費税を控除して国に納付します。
そのため、事業者が消費税を適正に納付するには、取引の売り手と買い手が取引にかかる消費税率と消費税額を正しく認識しなければなりません。
そこで、国はインボイス制度を通じて、取引の売り手がインボイス(取引の消費税率と消費税額を記載した適格請求書)を発行し、そのインボイスを取引の買い手が保存することで、取引にかかる消費税率と消費税額を双方が正しく認識できるようにしました。
このように、消費税の免税制度とインボイス制度の趣旨・目的は異なりますが、インボイス制度の開始をきっかけにして、多くの免税事業者がインボイスを発行できる課税事業者に転換せざるを得ない状況が生じました。
その理由は、インボイスを発行できない免税事業者が、課税事業者との取引から排除されるかもしれないことや、課税事業者から取引価格の値下げを要求されるかもしれないためです。
しかし、この問題は、インボイス制度によって免税事業者が無理やり課税事業者に転換させられるという問題ではなく、免税事業者が何十年もの間、消費税の名目で預かったお金を自分の利益にしながら経営を成り立たせてきたという問題として考えるべきです。
消費税の免税制度は、免税事業者の納税事務負担に配慮したものであって、消費税の名目で預かったお金をあたかも補助金のように自分のものにできる制度ではありません。
本来納めるべき消費税を取引価格に上乗せできないのは、消費税の問題ではなく、上乗せできないビジネスの問題として捉えるべきです。
世間には、インボイス制度を免税事業者への配慮を欠いた制度だと厳しく責める意見があります。
しかし、消費税の免税制度が採算の厳しいビジネスを温存させるために設けられた制度でないことは明白です。
もしも、消費税の益税ありきでなければ成り立たないというビジネスがあるのであれば、今こそビジネスモデルを抜本的に見直して、取引価格にキチンと消費税を上乗せできるように改革を実行すべきです。