安心安全のコスト負担
訪日外国人が増加する中、深刻化するタクシー不足の解決策として、海外で普及するライドシェア解禁論が注目を浴びています。
タクシー不足の問題は、タクシー運転手の高齢化のほか、新型コロナ禍でタクシー運転手の収入が激減して離職が増加したことが背景にあります。
しかし、ライドシェアの解禁論にはタクシー業界が反対しています。
その理由は、ライドシェアでは乗客の安心安全が担保できないからというものです。
世の中には様々な種類の商品・サービスが溢れています。
その中には、危険がゼロとはいえない商品・サービスがあります。
一般的に、危険がゼロとはいえない商品・サービスを消費者に販売する際は、消費者に対して十分な情報を提供したうえで、消費者が購入する商品・サービスを自由に選択できることや、購入した商品・サービスに自分が責任を持つという自己責任の考え方を取り入れます。
現実の経済社会で危険がゼロとはいえない商品・サービスのリスクを限りなくゼロに近づけようとするとき、それを担保するためにかかる規制コストはどんどん膨れ上がります。
結局、消費者がそうした規制コストが転嫁された商品・サービスを購入時の価格として負担しますが、その価格が高すぎると、消費者は商品・サービスを購入せず、その商品・サービスは世の中から消えていくはめになります。
深刻化するタクシー不足の問題は、まさに安心安全のためのコストが転嫁されたタクシー料金を、乗客である消費者自身が負担できていないという現実にあらわれているようにもみえます。
タクシー業界が主張する安心安全のためのコストを乗客である消費者自身が価格として負担できなければ、そのコストは消費者自身が自己責任というカタチで直接負担することの方が合理的といえます。
もちろん、その場合は、国が、危険がゼロとはいえない商品・サービスについて、消費者保護のための法律を作ったり、法律の解釈を工夫したりして、商品・サービスを提供する事業者の責任を広く認めるようにすることが必要です。
インバウンド需要が回復して、更なるタクシー不足が懸念される現在、消費者が自由な移動手段を確保するためのコストを、消費者にタクシー料金の値上げで負担させるのか、それとも自己責任のカタチで負担させるのか、議論の先送りはできない時期に来ています。