個人格差
石破新首相は、金融所得の課税強化について、現時点では具体的に検討することは考えていないことを明らかにしました。
金融所得とは、個人が株式、投資信託、預貯金などの金融商品を運用することで生じる所得です。
金融所得には、所得の金額には関係がなく、一律に20.315%の税率が適用されます。
一方、金融所得を除く、個人の事業所得やサラリーマンの給与所得などには、所得の金額が多いほど税率が高くなる、累進税率(最高税率55.945%)が適用されます
そのため、金融所得の多い富裕層については、個人の所得金額が1億円を超えたあたりから、負担税率が低下するという、1億円の壁と呼ばれる現象が生じています。
この現象を、所得の多い人は所得の少ない人よりも税金を多く支払うべきとする、所得税の基本に当てはめると、所得の多い人のうち、金融所得の多い人ほど負担税率が低下することとなり、税負担が不公平であるといえなくもありません。
岸田前首相は、この1億円の壁の現象を是正するため、令和5年度税制改正において、令和7年からの富裕層に対する課税強化を決めました。
その内容は、個人の合計所得金額から3.3億円(特別控除額)を差し引いた金額に22.5%の税率を乗じた所得税額が、通常の所得税額を超えた場合の差額を納税するというものです。
もっとも、この新制度は、個人の合計所得金額が30億円以上の人や金融所得の金額が10億円以上の人が対象となるため、課税が強化される富裕層はごく僅かです。
一部の専門家は、新制度は不公平な税負担を是正するための措置として不十分といい、金融所得に対して事業所得や給与所得と同じ累進税率を適用すべきと主張します。
また、別の専門家は、もともと1億円の壁の現象の根底には所得の格差の問題があるのではなく、資産の格差の問題が原因としてあるから、個人の所有資産に対する課税を検討すべきと主張します。
1億円の壁に関する税をめぐる議論の大半は、個人の所得格差や資産格差を問題視する考え方が基本です。
とはいえ、個人の所得格差や資産格差の問題は、単に税制を変えるだけでは解決することができません。
石破新首相には、こうした個人の格差を社会的に許容できる水準にまで縮小するために政府として何ができるのか、政策を総動員する議論を期待します。