経営者の個人保証
金融庁は経済産業省などと連携して、経営者保証に依存しない中小企業融資を推し進めるため、金融機関等の保証手続きを2023年から順次見直すこととしました。
経営者の個人保証は、会社が倒産すれば個人の自宅や財産を差し出さなければならないため、これから起業しようとする人やリスクを取ろうとする経営者を躊躇させたり、世代間の円滑な事業承継を邪魔したりする問題が指摘されてきました。
一方、経営者の個人保証には、本来ならば金融機関の融資が難しい会社にも、個人保証があることで融資が可能となり、どうしても融資が必要な会社を助けるという役割があるのも事実です。
たとえば、所有(株主)と経営(取締役)が分離していない、大株主=経営者の会社が、個人の資産と会社の資産を明確に区分できていない場合には、両方の資産を融資の担保に求められるのは仕方がありません。
また、事業基盤や財務基盤が脆弱な会社が、身の丈を超える融資を求めるのであれば、会社以外の資産を担保に差し出すのは当然といえます。
さらに、会社の経理に外部監視の目が届かない会社では、意図的な不正や粉飾決算を防ぐすべがないので、経営者自らが会社の数字を保証する必要があります。
そのため、経営者の個人保証がすべて問題だというのは言い過ぎで、今回の金融庁のねらいも、経営者の個人保証を求める過度な動きを監視して、安易な個人保証に依存しない融資慣行を確立しようとするものです。
2023年3月からは、創業5年以内のスタートアップに経営者保証を不要にする新しい信用保証制度が開始します。
具体的には、事業者が通常の保証料率に0.2%上乗せした保証料を負担することで、信用保証協会が3500万円を上限に無担保で全額保証してくれるという内容です。
また、金融機関が安易に保証をとる慣行を是正するために、4月からは、金融機関が経営者の個人保証を求める際には保証の必要性を事業者に説明し、その実績を金融庁に報告することになります。
同時に、経営者保証に関する事業者の相談窓口を金融庁に設置して、何か問題があれば、金融庁が金融機関にヒアリングすることになります。
今後は、中小企業が金融機関から融資を受ける際の、経営者の個人保証を求める動きが弱まることが期待されます。
個人保証を外したいと考えている経営者にとっては朗報です。
まずは、個人と会社の資産が明確に区分できているか、適正な決算を行う体制があるか、などを確認しましょう。
その際、経営者個人の支払いを会社が立て替えていたり、経営者に対する金銭の貸し付けがあったりすると、個人と会社の分離が不十分と見なされる恐れがあります。
また、会社の経理については、日常の経理処理や期末の決算処理を間違えないように専門家のチェックを導入することも有効です。
経営者の個人保証を外すには、会社の信用だけで十分に融資を返済できることを金融機関に示すことが何よりも重要となります。