社長退任後に会社に関与する場合の役員退職金の注意点
中小企業では、役員退職金の支給額は功績倍率法を用いて算定するのが一般的です。
このため、最終報酬月額が最高額となる社長退任時に役員退職金を支給するケースが多いです。
しかし、社長退任後に会長や相談役などで会社に関与する場合は、税務上のリスクがあるので注意が必要です。
功績倍率法とは
役員退職金の支給額を算定する功績倍率法を計算式で表すと、つぎのようになります。
役員退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率
たとえば、役員退任時の報酬月額100万円、役員在任期間30年、功績倍率3.0とすると、役員退職金の支給額は、100万円 × 30年 × 3.0 = 9,000万円となります。
功績倍率法は、役員在任期間中の最終報酬月額がその役員の会社への功績を反映するものとして合理性が認められています。
社長退任後に会社に関与する場合の役員退職金
税務では、退任した社長が会社に関与しても、「実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」場合は、例外として、社長退任時に支給する役員退職金を認めています。
「実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」場合とは、つぎのような場合をいいます。
・ 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
・ 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
・ 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
ここで、注意が必要なのは「実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者」は除かれている点です。
たとえば、つぎのような場合は注意が必要です。
・ 取締役会や経営会議への出席
・ 事業上の重要な意思決定への関与
・ 人事、報酬・給与等の決定への関与
・ 予算・決算への関与
・ 稟議書等の決裁
・ 資金調達(金融機関交渉)への関与
税務では、退任した社長が「実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者」に該当すると、社長を退任しても役員を退職したことにはなりません。
その場合は、支給した役員退職金は、個人では退職所得ではなく給与所得となり、法人では源泉所得税の徴収不足や役員退職金の損金への算入が問題となります。
通常、社長の役員退職金は高額となるため、否認された場合の影響額は大きくなりがちです。
社長が退任後も後見役として引き続き会社に関与する場合は、社長退任時の役員退職金の支給は見送ることが無難です。
その場合は、たとえば取締役会長や取締役相談役などの役職で社長在任中と同額の報酬を支給して、会社経営から完全に引退するときに役員退職金を支給することを検討してみるのも一案です。
まとめ
中小企業では、最終報酬月額が最高額となる社長退任時に役員退職金を支給するケースが多くあります。
しかし、社長退任後に会長や相談役などで会社に関与する場合は、税務上のリスクがあるので注意が必要です。