金融緩和政策の見直し
去る7月21日、ECB (ヨーロッパ中央銀行)は、2011年以来、11年ぶりに政策金利を0.5%引き上げるとともに、これまで続けてきたマイナス金利の解除を決めました。
いま、アメリカやイギリスをはじめ、世界各国の中央銀行は、急激に進むインフレを退治しようと、急ピッチに利上げを進めています。
かたや、同じ7月21日、日本では日銀の黒田総裁が、現在の金融緩和の継続をあらためて表明しています。
黒田総裁の見解
日本でも、エネルギー価格の上昇などで値上げの動きが広がっています。
ただ、黒田総裁は、物価の上昇に見合う賃上げができておらず、経済の下支えには金融緩和の継続が必要と説きます。
また、最近の急激な円安は、金利を少し上げたからといって止まるとは考えられず、円安を止めるには大幅な利上げが必要なので、日本経済にはすごいダメージになるといいます。
たしかに、いま日本で金利を上げると、収入減を融資で延命している事業者や、低い金利で多額の借り入れをしている会社や人は、事業の継続が危ぶまれたり、生活が苦しくなるかもしれません。
ですが、黒田総裁の、金融緩和の継続で、時間はかかるかもしれないが、賃金の上昇をともなう物価の安定(年率2%程度の緩やかなインフレ)は可能という見解には、説得力はありません。
賃上げと労働生産性の向上
一般に、労働者の賃金が上昇するには、労働生産性の向上が必要だといわれます。
労働生産性は、企業が生み出す付加価値のうち、労働者の貢献をあらわす指標です。
労働生産性が上昇すると、企業が生み出す付加価値が増加して、労働分配率が一定だとすれば、付加価値の一部は労働者に賃金として分配されます。
これが、労働生産性の上昇が賃上げにつながるという理屈です。
しかし、本来、労働生産性の向上には、構造改革や成長戦略の実施が必要で、金融緩和とは関係がありません。
では、なぜ、黒田総裁は、金融緩和を継続するというのでしょうか。
金融緩和の逆効果
労働生産性の向上には、副作用として、構造改革による痛みや成長戦略の実施によるリスクがともないます。
これまで実施してきた金融緩和には、この痛みやリスクをやわらげる狙いがあります。
しかし、実際には、むしろ金融緩和は、古い体質の企業を温存させて、企業が構造改革や成長戦略の実施に踏み切ることを妨げています。
今後は、多くの日本企業が、EVやIOT、ロボット、脱炭素などの先端分野や、医療や介護、環境、健康などのニーズが拡大する領域に積極的に挑戦していかなければなりません。
そのためには、古い体質の企業を市場から退出させて、新しい事業に挑戦する企業を生み出す環境が必要になります。
日銀は、日本経済にこうした適度な新陳代謝が生まれるように、これまでの金融緩和を止めて、金融市場に金利を戻すことが必要です。