税務調査と刑事事件
税務調査によって帳簿の虚偽記載や資金の私的流用などの重大な不正が見つかった場合は、税務調査が刑事事件に発展することがあります。
中小企業の社長の中には、自分以外に会社の株主はいないから、かりに自分が会社に損害を与えたとしても、その損害を賠償する責任はない、と安易に考えている人がいます。
確かに、会社法には、取締役が職務を怠って会社に損害を与えた場合でも、総株主の同意があれば、取締役の損害賠償責任を免除する規定(会社法第424条)があります。
しかし、税務調査の結果が悪く、当局が悪質な脱税事件と判断すると、当局は検察官に対して刑事告発をします(刑事訴訟法第239条第2項)。
社長が、納税義務があることを知りながら故意に脱税する行為や、社員に帳簿の改ざんや架空の経理処理を命じる行為、他人名義の銀行口座を利用して売り上げを誤魔化す行為、税務調査の質問に明らかに嘘をつく行為などが悪質であると判断されます。
会社法第960条は、取締役が自己もしくは第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めます。
取締役の背任行為(特別背任罪)は刑事罰の対象です。
自分以外に会社の株主が存在しない会社の社長は、より慎重に法律を理解して、適切な会社運営を心掛けなければなりません。
新聞等で脱税事件の報道を見かけますが、当該会社が、脱税によって社会的信用を失い、取引先との取引停止や金融機関の融資差し止め、公的許認可の更新不能など、会社経営に重大な影響が生じることが想像できます。