給付に見合う租税の十分性

昨年6月の政府税制調査会の答申(わが国税制の現状と課題-令和時代の構造変化と税制のあり方-)では、日本の潜在的国民負担率(国民負担率に財政赤字の要素を追加したもので令和5年度は53.9%の見込み)が福祉国家であるスウェーデンと同程度であり、現在世代が将来世代に負担を先送りしながら、過大な受益を享受していると指摘しました。

この事実は、政府が、現在の給付に見合う財源をすべて税金で賄うことができずに、毎年赤字国債を発行して財源を穴埋めしていることからも伺えます。

政府は、国民が納めた税金を使って、国民の生活と財産を守るために、警察や消防、道路や水道などの社会インフラ、教育や福祉などの公的サービスを提供します。

税制は、そうした社会で必要とされる公的サービスの費用負担を国民で分かち合うためものであり、税制の役割は必要な財源をきちんと調達することにあります。

国民の多くは、自分に有益な公的サービスを政府に求める一方で、自分は税金をなるべく支払いたくないと考えています。

また、民主主義による意思決定は、議論に参加しない将来世代のことよりも、議論に参加する現在世代のことを優先して物事を決めがちです。

赤字国債の発行は、将来世代への国の借金の先送りだと指摘されますが、その原因を作っているのは、現在世代が負担に比べて過大な公的サービスを享受しているという事実に他なりません。

政府関係者は、毎年議論して税制改正を実施していますが、給付に見合う財源をきちんと調達するという、税制の本来の役割を果たすための議論には、不十分であると言わざるを得ません。

これまで日本の租税では、公平・中立・簡素の3原則を中心に議論してきましたが、現在の日本の税制の状況を考えると、租税の十分性についても、原則としての議論が必要といえます。

将来世代が赤字国債の返済に追われることなく、自分が支払った税金を自分のためにどう使うかを議論できるように、給付に見合う財源を調達するための税制について、現在世代は至急議論しなければなりません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

前の記事

商売の基本

次の記事

人員確保の戦略