サラリーマンの副業収入と損益通算

8月に国税庁がパブリック・コメント(意見公募)した所得税の通達改正案に、7000を超える数の意見が寄せられました。

当初、国税庁が作成した通達の改正案は、サラリーマンなどの副業収入が300万円以下の場合は、特に反証のない限り、雑所得と取り扱って差し支えないという内容でした。

しかし、副業収入が雑所得になると、他の所得とは損益通算ができないので、副業が赤字のサラリーマンには大きな影響が出ます。

近年はコロナ禍の影響もあり、インターネットを利用した中古品売買や、自宅駐車場の時間貸し、特技やスキルを活かした業務請負など、個人の所得稼得手段は多様化しています。

また、政府が推進する働き方改革の下で、社員の勤務地や勤務時間、兼業禁止に対する企業の考え方が軟化して、正社員の副業できる環境は整ってきています。

実際、サラリーマンの副業については、インターネットのサイトや市販の書籍でも多く取り上げられていて、副業の税務申告を解説する記事が増えています。

しかし、そうした記事の中には、副業が事業といえる規模ではないにも関わらず、事業の開業届を税務署に提出して、副業の赤字と給与所得との損益通算を提案する記事もあります。

国税庁は、高額の給与所得者が、副業での多額の赤字を給与所得と損益通算して、所得税の還付申告をすることを問題視しています。

国税庁は、パブリック・コメントに寄せられた多くの意見を踏まえて、所得税の通達改正案を修正しました。

修正案では、雑所得に該当するかどうかは、副業の収入金額ではなく、副業の取引を記録した帳簿書類の保存の有無で判断することになりました。

なので、今後は、取引を記録した帳簿書類の保存がない場合には、原則として、副業収入は雑所得に該当することになります。

もっとも、副業収入が事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度でおこなわれているかどうかで判定するので、取引を記録した帳簿書類の保存があれば、かならず事業所得に該当するわけではありません。

今回、国税庁が帳簿書類の保存を判断の材料にしたのは、取引を記録した帳簿書類がないと、税務調査などで所得の分類の適否を検証することができないからでしょう。

実際、裁判で事業所得と雑所得の分類が争われた際には、事業が自己の計算と危険において独立して営まれているかどうかや、事業に営利性・有償性があるかどうかなど、多面的な判断が求められています。

また、そもそも雑所得が、他の所得との損益通算が認められない理由は、雑所得は必要経費がほとんどかからないか、かかっても収入を上回ることのないものが大部分なため、損益通算の実益がないこと、また、雑所得である程度支出を伴うものについても、その支出の内容には家事関連費的な支出が多いのが実情で、これについて損益通算をすると、本来の所得計算のあり方に混乱を招くおそれがあるからだといわれています。

以上によれば、やはり、サラリーマンの副業収入の所得の分類には多面的な判断が必要で、取引を記録した帳簿書類の保存は、それに必要な材料に過ぎません。

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